この度、中部地区英語教育学会では「卒論・修論発表会」を実施いたします。以下をお読みいただき、奮ってご参加ください。
目的
中部地区英語教育学会は、大学所属の研究者はもちろんのこと、小学校・中学校・高等学校で英語教育に携わっている多くの先生方に関わっていただきながら、これまで発展してまいりました。
その歴史をこれからもつなげていくために、これからの英語教育研究を担う若手研究者の育成を目指し、卒業論文および修士論文をご発表いただく機会を設けることといたしました。
ご発表・ご参加くださる皆様の今後の研究の発展のために、有意義な時間となることを願っております。
実施概要
日時:2024年2月23日(金・祝) 13:00~18:00
タイムスケジュール
13:00-13:05 開会式
13:10-14:05 セッション 1 (2件の発表 x 1会場) 55 分
(コメンテーター: 髙木亜希子[青山学院大学])
佐藤瑠美(名古屋学院大学大学院)スポーツ推薦で進学した大学生の英語学習動機づけ減退要因
要旨
英語を受験科目としないスポーツ推薦生が多い大学での英語コミュニケーション授業における様々な課題は、学生の英語習熟度の低さだけではなく、英語学習意欲そのものが低いことが根底にある。こういった学生をどのように動機づけ、英語学習に向かわせるのかは、多くの大学が抱える課題である。本研究では、野球部学生2名の英語学習動機づけ減退要因について、半構造化インタビューによって得たデータをもとに、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M- GTA)を用いてボトムアップ的に調査する。属性や人生経験の類似した2名の学生は中学の初めに英語に躓くという似た経験をしているが、現在の大学英語授業への動機づけは実は全く異なったものであることが明らかになった。どのようなことが動機づけを高める要因になるのか、あるいは減退させる要因になるのか、その質問の答えが簡単でないことが本研究でも明らかになった。
金谷永美子(名古屋学院大学大学院)小学校教員の英語授業に対する認識 ―小学校英語活動の教科化と低学年化の影響―
要旨
2017(平成29)年度の学習指導要領の改定に伴う、小学校英語活動の教科化、低学年化が小学校英語教育の現場や教員に与えた影響と、現在の教員の認識を明らかにすることを目的とし、小学校教諭への半構造インタビューを行った。インタビューで得たデータに対してSCAT分析を行い、新しい概念の生成と理論化を試みた。その結果、英語授業(指導法)に対する教員認識、「教員の英語力」に対する教員認識、「英語は誰が教えるべきか論」に対する教員認識、今後の英語教育への教員認識、に分類できる、いくつかの理論が生成された。加えて、先行研究で認められた従来の教員認識(不安)は、小学校英語教育の経年に伴って払拭されるものではなく、むしろ、時代や英語教育の移り変わりによって、変化、もしくは追加されていくものだということが明らかとなった。
14:10-15:05 セッション 2 (1件の発表 x 1会場、2件の発表 x 1会場) 55 分
会場1(コメンテーター: 山本大貴[信州大学])
花木柾哉(名古屋学院大学大学院)モノローグ型タスクにおける事前準備が発話内容に与える影響 -個人とペアの比較-
要旨
中学1年生への英語教育において、学力差が拡大し、低位の生徒がますます英語に対する苦手意識を抱く状況が見られている。また、一対多の授業形式では低位の生徒にとって「できる」「わかる」と感じる場面を作ることが難しくなっている。この問題に対処し、生徒たちがより主体的に学べるようにするために協同学習を導入した。また、言語習得を促進するためにタスクを活用した授業を行った。具体的には、英語を使用する場面を提供し、既習の文法を思い出させ、相手に正確に伝えるための考えを促すモノローグ型タスクを行った。本研究では、モノローグ型のタスクにおいて、生徒を個人で事前準備を行う個人群とペアで事前準備を行うペア群に分け、その発話内容に与える影響を調査した。 結果として、流暢さ、語彙の豊かさ、正確さの3点については、個人群とペア群で有意差は見られなかった。ただし、どの項目においても、ペア群の数値が個人群を上回った。
会場2(コメンテーター: 内野駿介[北海道教育大学])
小杉峻平(東京学芸大学教職大学院)Development of Pupils’ Knowledge on Plural -s
要旨
本研究は、児童が持つ単数形と複数形それぞれの目的語を含む文の正誤を判断する知識を調査することを目的としている。国立大学附属小学校の4〜6年生に、リスニングによる文法性判断テストを実施した。テストには単数形と複数形それぞれの正文と誤文が5文ずつ、計20文使用された。また、複数形-sの発音は/s/、/z/、/iz/、/ts/、/dz/の5種類がそれぞれのグループに含まれるよう作成した。それぞれの文の正答率及びχ2検定の結果から、複数形の発音ごとの認識のされ方に特徴があることが示唆された。また、クラスター分析により参加者の回答傾向を分類した結果、児童がもつ単数形と複数形の知識の発達には段階があることが示唆された。単数形において、一度正しく使用できていたにも関わらず次の段階で誤って使用され、さらに次の段階で正しく使用されるようになる発達がみられた一方で、複数形の発達は同様の発達順はみられず、直線的に発達していたことがわかった。
小平温大(信州大学教育学部)L1とL2の意味カテゴリーの違いによる第二言語語彙習得への影響 ―学習者の習熟度に着目して―
要旨
Jiang(2000)は言語使用や注意深いインプットなどの肯定証拠を通して、習得が進むと述べている。L1とL2の関係によっては否定証拠が必要とするWhite (1989) の考え方に基づけば、L1語彙の意味カテゴリーが対応するL2語彙より大きい場合、肯定証拠のみでは習得できず、否定証拠が必要である。つまり、肯定証拠のみで習得できるとされる語と否定証拠が必要であるとされる語の間で習得状況の違いが見られると想定される。そこで、本研究では、中学生と大学生を対象に、初学者はL1の語彙情報をそのままL2に移行してしまうのか、また習熟度が高い学習者はL1とL2の意味カテゴリーの関係によって習得に違いが表れるのかについて判断テストを用いて検証した。 結果としてL1とL2の意味カテゴリーの関係の違いはL2語彙習得に影響を与えることが分かった。L1の影響を減らすために、語の持つ意味カテゴリーによって指導を変えることが必要であることが示唆された。
15:15-16:15 研究法ワークショップ 60分
「英語教育研究に初めて取り組む際に知っておきたいこと」講師:藤田卓郎 (福井工業高等専門学校)
16:25-17:50 セッション 3 (3件の発表 x 1会場) 85 分
(コメンテーター: 岡崎浩幸[富山大学])
松本優(静岡大学教育学部)主語卓越構文理解に対する日本語文の影響
要旨
日本語母語の英語学習者は、主語卓越構文を理解する際、主題卓越的な構造を持つ日本語からの影響を受けるため誤った解釈をしやすい(白畑, 2013他)。本研究の目的は、主語卓越構文について、学習者がどのように日本語訳からの影響を受けるのか確かめ、その結果を基に指導につなげることである。本研究では、英語と日本語の主語・主題卓越性による統語的な違いが大きく表れている文を3つに分類し、非文法的な英文をType 1(主語が省略され別要素の主題が入った文)、Type 2(主語に主題を当てはめた文)、Type 3(コピュラ文)とした。参加者を2グループ(グループAにTest A、グループBにTest Bを提示)に分け非文法的な英文の文法性を問う問題を提示し、添えられている日本語訳が主題卓越的な文(Test A)か主語卓越的な文(Test B)かにより、文法性判断にどのような影響が表れるか検証した。その結果、グループBはグループAに比べ得点が高く、Type間に差があることがわかった。
山下万葉(鹿児島大学教育学部)Verification of the Effects of CLIL in Elementary School English Education.
要旨
In the upper grades of elementary schools, although students are at the stage where their ability to think abstractly is increasing, due to the nature of foreign language activities, systematic learning is not conducted, and it is observed that students feel unsatisfied with the content of their learning. In the current English education in elementary schools, there is too much activities such as repetitive activities, chants, games, and unnatural scene settings. CLIL is suitable for exploring methods that stimulate intellectual curiosity in response to student’s interests, while involving content and thinking activities. In this study, we will investigate effectiveness and possibilities of CLIL. In this study, I examine whether elementary school students can effectively learn the content of both English and other subjects. The participants are 105 6th graders and 8 5th graders from an elementary school attached to a national university. Blue Sky Elementary 6 was used. The subject of this study was Unit 2: Welcome to Japan. This unit was integrated with the social geography content that the students had already studied. A questionnaire survey was conducted before and after the unit. The results of the study showed that CLIL “can’t increase student motivation,” “students understand both the content of the class and the English (language) used in the class,” and “students and teachers do not feel burdened by the class.” Based on these results, we believe that CLIL can be effective in foreign language education in elementary schools.
(コメンテーター: 佐藤選[東京学芸大学])
相澤彩子(立教大学大学院)A Rasch-Based Validation of the English-Japanese Version of Phrasal Vocabulary Size Test
要旨
Using formulaic language (FL) has both receptive and productive benefits, and lists and tests of different types of FL have been produced. This thesis focused on the Phrasal Vocabulary Size Test (PVST), a test of one type of FL, phrasal expressions. As research on single words showed that a multiple-choice test with options in the test-taker’s L1 produced more accurate scores than one with English options, the options of the PVST were translated into Japanese. It was shown that although some items could be further improved, the test generally fit the Rasch model. The relationship between item difficulty, frequency, and familiarity was examined to see which of the two factors, frequency or familiarity, could better predict the difficulty of phrasal expressions, and no statistical difference was found between the two. Finally, as test scores alone do not reveal test taking behaviour, think-aloud interviews were conducted to some participants. The think-aloud data were grouped into seven main categories and 18 types of process, and it was suggested that in 38% of cases the test-takers used partial knowledge of the sentence to answer the items. It was also found that the guessing effect was below chance (10.8%) and that two of the Japanese options were confusing to the test takers suggesting that the wording of the options needs to be changed. The results suggest that English teachers need to recognise the value of FL and the importance of teaching each phrase as a whole rather than breaking it down into individual words.
17:55-18:00 閉会式
開催方法:Zoomを利用したオンライン開催(会場URLは参加申込された方にメールで送信いたします)
参加資格:
・発表者:2023年度内に卒業論文または修士論文等を提出した学生(会員・非会員問わず発表可能)
・参加者:なし(会員・非会員問わず参加可能)
内容:学部学生による卒業論文、大学院生による修士論文、教職大学院生による実践課題研究報告書・修了論文等の研究発表
参加費:無料
発表時間:1件あたり25分(発表15分、コメンテーターによるアドバイスと質疑応答10分)、発表間隔5分
注意事項:
・本発表会での発表は学会発表とは見なしませんので、他の学会等で同一の内容をご発表されても、中部地区英語教育学会としては問題ありません。ただし、ご発表される学会の規定に従ってください。
・本発表会での発表をもって、中部地区英語教育学会紀要への論文投稿権は発生しません。2024年6月に開催される研究大会でご発表されることで、同紀要への論文投稿権が与えられます。
ワークショップ
研究発表に加えて、以下の通り研究法ワークショップも実施いたします。
講師:藤田 卓郎先生 (福井工業高等専門学校)
タイトル :「英語教育研究に初めて取り組む際に知っておきたいこと」
申し込み方法
発表申し込み:2023年12月20日(水)から2024年1月31日(水)まで
参加申し込み:2023年12月20日(水)から2024年2月20日(火)まで
お問い合わせ
中部地区英語教育学会 卒論・修論発表会実施委員会
鹿児島国際大学 福祉社会部児童学科
階戸 陽太
E-mail: celesishikawa[at]gmail.com